明石 康 氏 特別公演

「昨今の国際情勢について」

平成12年5月19日
前国連事務次長 明石 康 氏(昭和23年卒)

1. 米国経済

米国経済は依然として好調である。マンハッタンを歩いていてもきれいで安全に感じる。しかし、内向きには強気だが、外からは借金の上に成り立っている好景気のように見える。これはいわば証券市場バブルである。米国の貧富の差はむしろ拡大しており、このままだと市場規模は縮小に向かうだろう。米国経済に過剰な期待を抱くのは控えた方がよい。

2. コネチカット州、ウエスリアン大学(Wesleyan University)訪問

30%が留学生で占められている大学である。この大学のように米国では大学4年までは日本の旧制高校のようなもので一般教養が中心であり大学院に行ってから専門分野を学ぶというケースが多い。学長公邸でセミナーを行うことから分かるように学生が大学に溶け込んでいる。

3. ハーバード大学ケネデイスクール訪問

元ドイツ首相のシュミット氏等が出席するケネデイスクールでの会議(OBサミット)に参加した。この大学では卒業生から学部当り2億8千万ドル(邦貨換算約280億円)の寄附がある。概してアメリカの私立大学はハーバードのように質が高い。産学協調が進んでおり、午前に4時間、午後に4時間半のような集中的なゼミナールも行われている。

4. 国連本部訪問

9月のミレニアム特別総会の準備状況を視察した。世界各地で起きている民族紛争や内戦に、人権、人道の見地から介入するか、それぞれの国の国家主権を侵害しないように差し控えるのかの見極めが難しい。55年前から変わっていない安全保障理事会の改革もこの総会の重要議題である。日本やドイツをいつまでも常任理事国にしないのは良くない。アフリカのシエラレオネで起きた500人の人質事件でPKOの弱点と欠陥が表れた。PKOの中立性と合意原則を考慮しなけければならず対応が難しい。アジア、アフリカ、中東、バルカンに未だ民族紛争の火種が残っているが、この事でPKOに過大な期待は出来ない。

5. ドイツ訪問

ドイツの失業率は10%に達している。移民比率もフランスと同程度の9%である。日本の移民比率は今の所1%だがその内に日本もドイツやフランスのようになりうる。オーストリアの極右政権が行った移民排斥運動のようなナチズム復活の懸念が生じている。インドなどからIT移民が行われるようになった。一方所謂3K職種を移民に行わせるような傾向もある。ドイツで起きているこのような現象は今後の日本にも生ずるかも知れない。
統一通貨ユーロは強いドイツマルクに支えられている。EUを米国に対極させるのは高いプライドを持つEUの、覇権者アメリカ支配からの脱却志向の表れである。NATOの中にも米国一極支配に対する不平や不満が出始めている。
外交技術に長けている英仏と経済力のあるドイツを組み合わせてアメリカに対抗しようとしているが、3ヶ国主導が行き過ぎると南米でブラジルに対してアルゼンチンやメキシコが反発したような事態になりかねない。今後日本はEUとの絆を強めていかなければならない。

6. 結び

長期不況からの脱出が今の日本の緊急課題である。日本は技術力と経済力が強く、文化水準も高いことを誇りにして自信を失わないようにしなければならない。最近の中国関係のシンポジュウムで日本の公務員制度を賞賛しこれを模範にしたいという趣旨の発表が2件あった。過度の自己批判は自信喪失を招く。今後日本は一つ一つを自分の目で確かめ、着実に歩んで行くように心がけるべきである。

フロアーからの質疑応答

尾形 均(昭和44年卒)
ハーバード大学に2億8千万ドルもの寄附金が寄せられる背景を教えて欲しい。
明石
ハーバード大学の入学は日本のように入学試験だけによらず、志望者の家族履歴等も考慮に入れる。この為3代にも亘って卒業生を出している家もある。これが高額寄附金の理由の一つである。
浅原 勝(昭和30年卒) 
ドイツの失業率10%には旧東独が含まれていると思うが、これを除くと何%になるか。又失業率を改善するのにどのような対策がとられているか。
明石
ご賢察の通りであるが、旧東独を除いた失業率については詳らかでない。ベルリンの壁が崩壊した89年に東西ドイツが統一されて以来10年余り経つが、失業率の問題も含めて経済面での東西融合は進展していない。失業率低減対策としては、生産性の向上、労働時間短縮、IT産業による新規雇用の創出等があげられる。

以上
記録 浅原 勝(昭和30年卒)


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